皆子山登り納め
メンバー:私と隊長の2人(途中で3人)
行程:約13km
『都道府県別最高峰』の下から4番目だとか、最高地点が1000mないのは3府県だけだとか、おまけに登山口からの実質的な高低差でいえば500m級だとか、縦走ルートでも手頃すぎるとか、あわよくばあっち側に下りてから弁当が食えるのではとか、未登頂ながらかなり侮っている向きがあったが…、
11日の皆子山はまさかの雪山で、府最高峰の名前に違わない、恐るべき牙をむいたのであった。
第1課:アシビ谷
朝10時に、アシビ谷橋の横にクルマを停めて出発。この段階で、路面が部分的に雪で覆われており、予想以上の雪山っぷりを予感する。
20分ほどで、四輪車程度の幅の道は終わったが、あとはツボクリ谷出合まで、ひたすら谷を詰めていけばよい、つもりだった。
と、突然一本橋が現れる。ここから対岸に渡れということらしい。どうでもいいが、7kg背負って平材1本を、それも雪が不規則に凍り積もっているやつを渡りきるのは、伊藤カ○ジ君でも困難であろう。
落水の可能性を考えて、とりあえずカメラだけは先に送り、岩伝いに跳び渡る。私のトレッキングシューズは5年来非常に重宝しているが、濡れた平坦面で滑りやすいのが弱点なので、なんでもなさそうな飛び石でも着地には非常に気をつかう。濡れずに渡るのにこだわらなければ、裸足になって渡渉するのが一番賢いかもしれない。
次の渡河ポイントは平材2枚セット。ただし手すり代わりにロープが張られている。これなら、尺取り虫をやればなんとか渡れる。
谷は分岐を繰り返すが、Colorado300が指すツボクリ谷合流点に向かって、ひたすら谷筋をたどる。ルートは間違っていないはずなのだが、だんだん進むのが困難になってくる。ためしに谷の上から攻めてみたり、眼下に山小屋を見つけて「あっちが正解か」と絶壁を滑り降りたり、渡れそうな飛び石を見つけて対岸に渡ってみたり、散々な目に遭ってから、普通の踏み跡があるのを発見したり(^^;
地形図の破線がアテにならないことは承知していたが、ここはルートの目印のテープが他の山よりも大事ということに気がついたのは、少し後になってからのことである。
第2課:ツボクリ谷
やっとのことで、ツボクリ谷との合流点に到達。我々はアシビ谷の北側にいるので、ここでアシビ谷最後の渡河をしなければならない(実際ロープもかかっている)が、そのとっかかりが凍った大岩で途方に暮れる。
さっきからこの谷にかかっているロープとか板とかいうのは、どう考えても川の中を歩く前提で掴まるためのものか、さもなくば、単に「ここからは向こう岸の方が進みやすいので渡河することを薦めます」という記号なのかも、とさえ思った。帰って調べたら、昔はここにもまともな橋が架かっていたらしい。
身軽な隊長は足がかりを見つけて比較的簡単に跳び渡ったが、私はというと、例によってカメラを先に渡してもどうもならん。結局トレッキングシューズの性能に頼って強引に渡渉したが、思ったよりも深かったのに加えて2歩余分にかかったので、相当浸水してしまう。歩いている限りは冷え込むことはないが、うかつに停まれなくなってしまった。
渡河で立ち往生している間に、後発のおじさんに追いつかれる。沢越しにストックを貸したら、あっさり濡れずに跨いでしまった(汗)。水に入ることを覚悟した時点で、濡れずに渡れるルートが見えなくなったのはちょっと恥ずかしい。
このおじさん、皆子山は南からなら登頂経験があるけど、アシビ谷からは一度断念して引き返し、今回が再挑戦とのこと。今回も現在位置がわからなくなったところ、我々を見つけてひと安心とのことで、雪山ということもあり、これから下山まで行動を共にする。で、このおじさんが持っていた雑誌の記事のコピーが、のちのち我々を救う!?ことになる。
ツボクリ谷の目印である大栃を通過、その後の谷の分岐も間違いなく正しいルートをとる。このあたりで既に、踏み跡さえも雪で埋もれはじめる。
時刻はとっくに正午を大きく過ぎていたため大休止、誰だよ弁当前に下りられるなんて言ったのは(^^;
そしてこの後の分岐でしくじる。間の悪いことに、このとき上方が雲に隠れてしまって、地形図からのルート同定ができなくなってしまった。ルート的にはこれまでの軌跡の延長線のように見えたので、真ん中の谷を選んだが、登っていくにつれて、Colorado300の軌跡が山頂方向から外れていく。選んだときはわりと自信があったが、どう見ても、GPSの現在位置が20メートルほどずれていたとしか思えない。いや実際の緯度経度はほぼ正確だったのかもしれないが、地形図と合成して表示する段階でずれたのかもしれない。もちろん、ズレているということに気づくのも含めてすべて自分の責任だが、いずれにしても、20メートルのズレが谷1本の間違いを引き起こし、最終的に数百メートルのズレになったこと、改めて恐ろしいと思った。
結局、無理に本来のルートに戻ることは諦めて、尾根伝いに山頂を目指すことになる。わりと急斜面だが、藪が少なかったのと積雪のおかげで、足がかりには苦労しなかったのが不幸中の幸い。
というわけで、北尾根を400メートル歩いてやっと山頂に到着。あと30分早ければ、武奈ヶ岳などきれいに拝めたのかもしれないが、今は雪雲に覆われてしまった。
第3課:寺谷下山
3人ともとりあえず雪山を侮ってはいないため、早々に下山にかかる。
下山ルートについては、確実にルートがわかるアシビ谷か、見てないけど難易度は低い(とされる)寺谷かを改めて選択。アシビ谷の渡渉は二度もはやりたくなかったので、当初の予定どおり寺谷から下りることにする。どちらかというなら寺谷が正解だったと思われるが、寺谷を目指してルートをロストするという第三の、そして最悪の選択肢(笑)があったことは、メンバーの誰一人として予想していなかったのであった。
山頂近辺の分岐は、来たことのあるおじさんに選択を任せる。GPSで確認しても寺谷の西側の尾根を下りていることは確実なので、いずれ谷に下りるだろうと思っていたら(地形図の人道表示がアテにならないことは周知のとおり)、雪上の足跡がだんだん心細くなってきた。ここで前述の雑誌のコピーが登場(欲を言えば、山頂で出てきてくれたら)。地図上の表示はともかく、分岐や道の状況などを詳しく記している以上、この情報は信頼するべきであろう。そしてこの記事をどう読んでも、正規の寺谷ルートは、もっと早い段階で谷に下りなければならない。
既に100メートルほど下りていたが、このまま尾根の上を下りて、素人ではどうにもならん断崖絶壁やら藪やらに当たらないとも限らない(というか、正規のルートになってない以上、むしろ可能性が高い)ので、ここはおとなしく山頂に向かって登り返す。
これも帰って調べたものだが、実はこのルート、そのまま下りて標高630m付近、西からの谷と合流するあたりで寺谷ルートに合流するものらしい。実際下りている途中で「合流するならココか!?」とおぼしき合流も見かけた。ただし、ソース(googleで『皆子山』を検索したら、たぶん上位に出てくる)が5年以上も前の記録なので、今は本当に通れなくなっているかもしれない。後日2回登る覚悟で調べてみるか!?
さて登り返しだが、予定の半分ほどのところで、積雪の傾斜が帯状に緩くなっているのが谷底に向かっているのを発見。人間が複数回通った(ただし積雪前に)跡のように見える。よく見ると、通ってきた方には木の束が積まれていた。自然に判断するなら、このルートはここで谷に向かって折れているものであって、誤って直進しないように誰かがマークしてくれたものであろう。しかし、雪が積もっていて、しかも直進方向の足跡しかついていない状態で気づくのはおそらく不可能である。
足跡がだんだん心細くなったのは、おそらくこの道を下りた人は、ある程度まで下りてから何かがおかしいと思って、山頂まで引き返したものであろう。我々が一番遅くまで気づかなかったというわけだ。というか、2人だけだったら間違いなくさらに進んでいたに違いない。
結局ここも、雑誌の記事とは違う道のようだが、わざわざ直進方向に木の束を置いている以上、曲がる方の道は寺谷まで続く可能性が高いと判断、積雪の傾斜が緩い部分を辿って下りることにする。ここも積雪が幸いして足元はしっかりしていたが、雪がない時に歩くのはちょっとコワい道だったかもしれない!?
で、道らしきスジは、寺谷ルートのリボンが見える所まで続いてはいたが、谷底まであと10mというところで無情にも途切れる。あとはきつい斜面を強引に下りるか、山頂方向にトラバースして「谷を迎えにいく」かのどちらかをとるところだったが、隊長が根っこを手がかりに直降するルートを開拓したので、10分かけてどうにか正規のルートに合流。ロープの1本も持ってきていれば問題なかったのに。
あとはリボンを頼りに、寺谷ルートをひたすら下りる。ようやく、皆子山的なルートの見つけ方に慣れてきたが、ところどころリボンが落ちたりしていたせいで何回かミスコースしたので、リボンを直しながら進む。この山に入る時は、ビニールテープとマジックを持ってきた方がよい。
最後に葛川を渡るハシゴ橋が、またしても凍っていて往生したが、丸太を留めてある横板ではなく、横板の間の丸太の方を踏むことでどうにか切り抜ける。
ツボクリ谷出合で合流したおじさんは、本来はここから葛川を詰めて小出石に出て、バスで帰る予定だったそうだが、散々手間取ってバスがなくなったため、アシビ谷橋に停めてあるクルマで大原まで送り届ける。雪山はともかく、余計にえらい目に遭わせたようで申しわけなし。
まとめ
とにかく未開っぷりが予想以上で、加えて雪山ということで、1000m未満の山にしては格段に難しい山行であった。しかし考えたら、ルートが過度に?整備されていないこういう山の方が普通なのだ。
初見で通り抜けるなら(これ自体無謀という話もある)、アシビ谷ルートから登ったのは結果的には正解だった。確かに序盤でえらい目に遭ったが、もしさらにアクシデントが重なった場合、登山を断念して引き返す決断がしやすかったから。
これが逆回りだと、陽が傾き消耗した状態で渡河地点に当たった公算が大きく、ここで強引に突破するか山頂まで登り返すかという、極めて心細い選択を、それも何回も強いられたであろう。まあ追い詰められた状況ゆえ「裸足で渡渉する」という決断もしやすいだろうが、先が見えない不安はどうあっても消せないものである。
かなりな幸運に助けられて無事帰ってこられたが、アシビ谷の登りで正規のルートをロストしたこと、寺谷ルートの下りのとっかかりが見つけられなかったことは心残りである。これを解決するためには、いずれ逆回りで回らなければならないであろう。まあ雪のない、しかし裸足で渡渉してもヒルに喰われない時期にだけど(笑)。
今回、途中で道がなくなってもどうにかツボクリ谷出合に向かえたのは、間違いなくColorado300のおかげだが、そこから先は、お世辞にも全幅の信頼は置けないものであった。Japan TOPO 10Mの地図データといえども、やっぱり人道は適当だった。ハンディGPS(だけで未知の山に登ること)の限界を思い知ったものである。
というわけで、以下に初見でこの山から無事に帰ってこられるために必要なもの、言い換えると、これを装備していなかったがために、ヘタすると明るいうちに下山できなかったかもしれないものを記す。最低ひとつ、できれば複数。
- ロープ。正規のルートを外れた時、場合によっては正規のルートそのものでも、安全かつ効率的な上り下りの援けになる。
- 電池がなくても見られる地形図およびコンパス。ただしアテになるのは地形のみ。人道の表示は過信するべからず。
- ハンディGPSを持っている場合、現在位置および方角のズレに気づき補正する能力。尾根より谷底にいる方が格段に難しい。
- 先達、または先達の記録。
蛇足だが、京都府が「1000mない3府県」に入っていて「最高峰が下から4番目」では計算が合わんと思ったら、大阪府の最高地点は金剛山の山頂から600mばかり外れた府県境で1000m以上あるけど、山頂自体は大阪府でないので「大阪府の最高峰は金剛山ではなく大和葛城山」らしい。で、葛城山の955mは皆子山をも下回るということ。理屈は正しいが、果たして現実に「金剛山が大阪の山でない」と思っている大阪人は何人いることやら。